業務・職種別の活用法

広報・PRの生成AI活用|プレスリリースとメディア対応の効率化

広報・PRの担当者は、一人ないし数人で全社の発信を抱えているケースが少なくありません。プレスリリースの執筆、取材対応、SNS運用、社内報、掲載チェックまで守備範囲が広く、書く仕事に十分な時間を割けないまま締切が来る、という状況が常態化しがちです。

この記事では、プレスリリース作成とメディア対応という広報の中心業務に絞って、生成AIの使いどころを整理します。リリースの骨子出しと想定問答の作成に使えるプロンプト例に加えて、事実確認や危機対応での線引きも解説します。

この記事でわかること

  • 広報業務のうち、生成AIで時間を作れる工程と作れない工程
  • プレスリリースの骨子とタイトル案を短時間で用意する手順
  • 取材前の想定問答を網羅的に洗い出すプロンプト例
  • 事実確認・承認フロー・危機対応で守るべき線引き

広報業務のどこに生成AIが効くのか

広報の仕事は、大きく「書く仕事」と「関係をつくる仕事」に分かれます。生成AIが担えるのは前者の一部、とくに初稿を用意する工程と、大量の情報を整理する工程です。記者との信頼関係づくりや、社内の合意形成といった中核業務は代替できません。

業務別の活用度

主要業務を活用のしやすさで並べると、次のように整理できます。

業務 AI活用度 主な使い方 人が担う部分
プレスリリース執筆 高い 骨子・初稿・タイトル案の生成 事実確認、社内承認、最終表現
想定問答の作成 高い 質問の網羅的な洗い出し 回答方針の決定、回答内容の確定
掲載記事の整理 高い 要約、論調の分類、報告書化 重要度の判断、経営への報告
SNS・社内報 中程度 下書き、切り口の複数案出し トーン調整、公開判断
記者との関係構築 低い 準備メモの整理まで すべて人が担当
危機対応の判断 非常に低い 論点の列挙まで 方針決定、対外発表の全て

広報でAIを使う価値は、削減した時間を「関係をつくる仕事」に振り向けられる点にあります。書く時間を減らすこと自体が目的ではありません。

プレスリリースを効率化する

まず素材を棚卸しする

リリースが書けない原因の多くは、文章力ではなく素材不足です。AIに書かせる前に、次の項目を自分で埋めてください。埋まらない項目があれば、それは事業部門へのヒアリングが不足しているサインです。

  • 何を:発表する事実(新製品/提携/人事/調査 など)
  • いつから:提供開始日、実施期間
  • 誰に向けて:想定顧客と、その課題
  • なぜ今:市場や社会の文脈
  • 数字:価格、規模、実績など公開可能な数値
  • コメント:経営層や責任者の一言

そのまま使えるプロンプト例(リリースの骨子出し)

プロンプト例

あなたは企業広報のプレスリリース作成を補助する編集者です。
以下の素材情報だけを根拠に、リリースの構成案と初稿を作成してください。

【素材情報】
発表内容:
提供開始日/期間:
想定する読み手(メディア種別・想定顧客):
なぜ今この発表なのか(背景):
公開可能な数値:
責任者コメントの要旨:

【出力してほしいもの】
1. タイトル案 5本(各30字前後。事実を主語にしたもの3本、
   読み手の便益を主語にしたもの2本)
2. リード文(150字前後。5W1Hが1段落で分かる形に)
3. 本文構成(見出し4〜5点と、各見出しに書く内容の要点)
4. 記者が追加で聞きたくなる質問 5つ

【厳守事項】
- 素材情報に無い数値・実績・受賞歴・他社名を書かないこと
- 「業界初」「No.1」など、根拠の提示が必要な表現は使わないこと
- 断定できない箇所は【要確認】と明示すること

出力の4番目、「記者が追加で聞きたくなる質問」が実は最も役立ちます。ここで挙がった質問に答えられないなら、リリースの情報量が不足しているという判断材料になります。

タイトルは量を出してから絞る

タイトルはリリースの成否を左右しますが、一人で考えると発想が偏ります。AIに10〜20案出させ、そのうち使えそうな2〜3案を人が磨く進め方が効率的です。切り口を「事実型」「便益型」「数字型」と指定すると、案が散らばって選びやすくなります。

注意

生成AIは、素材にない実績や他社名をもっともらしく補ってしまうことがあります。数値・日付・社名・製品名・法令上の表記は、必ず一次資料と突き合わせてください。また、AIの活用有無にかかわらず、社内の広報承認フローと法務確認は従来どおり通す必要があります。表示規制や業界特有の表現ルールに関わる内容は、専門家に確認をお願いします。

メディア対応を効率化する

想定問答は「網羅」をAIに任せる

取材前の準備で時間がかかるのは、想定質問の洗い出しです。担当者は自社の事情に詳しいぶん、外部から見た素朴な疑問や、答えにくい角度の質問を見落としがちです。AIには、この「外からの視点」を担わせると効果的です。

プロンプト例

あなたは経済メディアの記者です。以下のプレスリリースについて、
取材で質問したいことを洗い出してください。回答は不要です。

【リリース本文】
(ここに貼り付け)

以下の区分で、それぞれ質問を出してください。
1. 事実確認の質問(数値・時期・対象範囲について)5つ
2. 背景を掘る質問(なぜこの取り組みなのか)5つ
3. 答えにくい可能性がある質問(競合比較、価格の根拠、
   実現可能性、過去の経緯など)5つ
4. 読者にとっての意味を問う質問 3つ

各質問には、その質問が出る理由を1行添えてください。
なお、リリースに書かれていない事実を前提とした質問は作らないでください。

3番目の「答えにくい質問」が準備の核心です。ここに挙がった質問について、回答方針を社内で事前にすり合わせておけば、取材当日に言葉に詰まる場面を減らせます。回答の内容そのものはAIに作らせず、責任者と広報で確定させてください。

掲載記事の整理を軽くする

掲載モニタリングの報告書づくりも、AIが得意な領域です。掲載記事の見出しと本文を渡し、「媒体種別」「論調(好意的/中立/批判的)」「言及されたキーワード」で分類させれば、経営報告用の素材が短時間で整います。ただし件数の集計は必ず人が確認してください。

ポイント

報告書は「掲載件数」だけでなく「リリースのどのメッセージが引用されたか」まで分類すると価値が上がります。引用されなかったメッセージは、次回の書き方を見直す材料になります。

危機対応でAIをどこまで使うか

不祥事やトラブルの対外説明については、AIの利用範囲を厳しく絞るべきです。使ってよいのは、社内で論点を洗い出す段階までと考えてください。

  • 使ってよい:想定される質問の列挙、公表資料の読みやすさチェック、時系列の整理
  • 使ってはいけない:謝罪文の生成、責任範囲の判断、事実関係が未確定な段階での文案作成

危機時の文書は、一語の選択が法的責任や信頼に直結します。またこの局面では、未公表の機微な情報を外部サービスに入力しないという原則が、平時以上に重要になります。

チームに定着させる進め方

  1. 定型リリース1種類から始める(人事、イベント告知など影響の小さいもの)
  2. 素材シートを様式化する(事業部門に埋めてもらう項目を固定する)
  3. プロンプトを共有する(担当者が変わっても同じ品質が出るようにする)
  4. チェックリストを作る(数値・社名・日付・表現規制の4項目は必須)

ツールの機能や料金は変わりやすいため、選定時には提供元の公式情報を確認してください。2026年時点でも各社のプラン改定は続いています。

よくある質問

Q. AIが書いたプレスリリースだと記者に見抜かれませんか?

A. 問題になるのは書き方ではなく中身です。素材が薄いまま体裁だけ整えたリリースは、手書きでも評価されません。AIは初稿を早く用意する道具と位置づけ、浮いた時間を素材集めと個別の情報提供に回すのが本筋です。

Q. 未発表の情報をAIに入力してもよいですか?

A. 慎重に扱ってください。とくに適時開示に関わる情報や、人事・提携などの未公表情報は入力を避けるのが原則です。入力する場合も、社名や固有名詞を伏せ、入力内容が学習に使われない設定・契約のサービスを選んでください。

Q. 想定問答の回答文までAIに作らせてよいですか?

A. 質問の洗い出しまでにとどめることをおすすめします。回答は自社の方針そのものであり、事実関係と責任範囲の確認を伴います。AIが作った回答をたたき台にすると、確認すべき前提を見落とすおそれがあります。

Q. 一人広報でも導入する価値はありますか?

A. むしろ一人体制ほど効果が出やすい領域です。相談相手がいない状況で、切り口の複数案出しや想定質問の洗い出しを担ってくれる点は大きな助けになります。ただし最終判断は必ず自分と責任者で行ってください。

Q. 効果はどう測ればよいですか?

A. まずは初稿完成までの時間と、社内差し戻しの回数を記録してください。掲載件数のような外部指標は他要因の影響が大きく、AI導入の効果だけを切り出すのは困難です。内部工程の指標から見るのが現実的です。

まとめ

広報・PRにおける生成AIの役割は、初稿を用意する時間と情報を整理する時間を圧縮することです。プレスリリースでは骨子とタイトル案の生成、メディア対応では想定質問の網羅的な洗い出しが中心的な使い道になります。とくに「記者が聞きたくなる質問」を出させる使い方は、準備の質を底上げしてくれます。

一方で、事実確認と承認フローは従来どおり人が担う必要があります。素材にない数値や社名を混ぜ込むリスクがあるため、公開前のチェックリストを必ず運用してください。危機対応では利用範囲を論点整理までに絞り、未公表情報の入力は避けることが原則です。削減できた時間を記者との関係づくりに振り向けられて、はじめて導入の効果が出たといえます。

  • 書く前に素材シートを埋め、埋まらない項目はヒアリング不足と判断する
  • タイトルは量を出させてから人が絞り込む
  • 想定問答は質問の洗い出しまでをAIに任せ、回答は社内で確定させる
  • 危機対応と未公表情報の扱いには、平時以上に厳しい線引きを置く