業務・職種別の活用法

経営企画の生成AI活用|市場調査と事業計画づくりの実務手順

経営企画の仕事は、社内の誰も答えを持っていない問いに、限られた時間で一定の質の答えを出すことです。市場の全体像を掴む、競合の動きを整理する、事業計画の数字を組み立てる。どれも調べる時間と考える時間の両方が必要ですが、実際には調べる時間に大半を取られているという方も多いはずです。

この記事では、市場調査と事業計画づくりという2つの実務に絞り、生成AIをどの工程にどう組み込むかを手順の形で整理します。そのまま使えるプロンプト例、工程別の任せ方の比較表、そして経営判断に使う情報を扱ううえで外せない検証のルールまでまとめました。

この記事でわかること

  • 市場調査を「仮説づくり」「情報収集」「構造化」に分けたAIの使いどころ
  • 事業計画の前提条件と数字の組み立てにAIをどう関与させるか
  • 市場構造の整理と計画レビューに使えるプロンプト例
  • AIの出力を経営会議の資料に載せる前に必ず行う検証の手順

経営企画で生成AIが効くのは「考える前の準備」

経営企画の成果物は、最終的には意思決定の材料です。ここで生成AIに期待すべきなのは、正しい結論を出させることではありません。論点を漏れなく並べ、資料の骨格を素早く作り、自分の思考の穴を指摘させることです。

逆に言えば、事実確認が必要な情報をAIの回答だけで済ませるのはもっとも危険な使い方です。生成AIは学習した時点までの情報をもとに、確からしい文章を生成する仕組みです。市場規模やシェアといった数字を尋ねると、実在しない調査結果をもっともらしく答えることがあります。

注意

生成AIに市場規模、成長率、シェアなどの数値を直接聞いて、それを資料に転記してはいけません。出典が確認できない数字は、経営判断を誤らせます。数字は必ず、官公庁の統計、業界団体の公表資料、企業のIR資料など一次情報にあたって取得し、AIには「どこを調べればよいか」「どう整理するか」を担わせてください。

市場調査:3つの工程に分けて組み込む

市場調査は一つの作業に見えますが、実際は性質の異なる3工程に分かれます。工程ごとにAIの関与度を変えるのが、失敗しないコツです。

工程1:調べる前に論点を出す

いきなり検索を始めると、目についた情報に引きずられます。着手前に「この市場を評価するために答えるべき問いを15個挙げて」と依頼し、論点リストを作ってから調査に入ると、抜け漏れが減ります。市場規模、成長ドライバー、規制、代替品、顧客の購買プロセス、参入障壁といった観点が並びます。

工程2:一次情報は自分で取りに行く

数字とファクトの収集は人間の仕事です。ここでAIに頼めるのは、探す場所のあたりをつけることです。「この業界の統計を公表している可能性のある官公庁・業界団体の種類を挙げて」と聞き、実際の資料は自分で確認します。取得した数字には必ず出典と公表年月を記録してください。

工程3:集めた情報を構造化する

ここがAIのもっとも得意な領域です。自分で集めた事実を貼り付け、フレームワークに沿って整理させます。3C分析、ファイブフォース、SWOTなど、目的に合った型を指定すると資料の骨格がすぐにできます。

プロンプト例

あなたは事業会社の経営企画担当者です。
以下に貼る「収集済みの事実」だけを根拠として、市場構造を整理してください。
事実に書かれていないことを推測で補わないでください。
補足が必要な場合は「要追加調査」として別枠に列挙してください。

【整理してほしい観点】
1. 市場の定義(どこまでを対象とするか、その境界の判断理由)
2. 主要プレイヤーの分類(ビジネスモデルの違いで3〜4群に分ける)
3. 需要側の変化と、その裏にある構造的な要因
4. 参入障壁と、それが今後弱まる/強まる条件
5. この市場を評価するうえで、まだ埋まっていない情報の一覧

【出力形式】観点ごとに見出しを付け、各3〜5行

【収集済みの事実】
(ここに自分で集めた情報を出典つきで貼り付け)

競合の整理は「型」を指定する

競合比較は、比較軸が定まらないまま作ると資料が散らかります。「価格帯・提供価値・主要顧客層・収益モデル・弱点の5軸で表にして」と軸を指定してから、自分が集めた情報を渡すと整理が速く進みます。

事業計画づくり:前提条件の設計にAIを使う

事業計画で議論が紛糾するのは、数字そのものよりもその数字を導いた前提であることがほとんどです。生成AIは、この前提の洗い出しと検証に向いています。

売上の積み上げ式を設計する

「この事業の売上を分解する式を、3通りの切り口で提示して」と依頼すると、顧客数×単価×頻度、チャネル別、既存/新規別といった複数の分解が出てきます。どの式を採用するかは自分で決めますが、選択肢を並べる作業を数分で終えられます。

前提条件を明文化させる

作った計画の要約を渡し、「この計画が暗黙に置いている前提を洗い出して」と依頼します。人員の採用が計画どおり進む、解約率が現状維持、価格が維持できる、といった前提が言語化されると、リスクの議論がしやすくなります。

プロンプト例

あなたは投資判断に厳しい社外取締役です。
以下の事業計画案に対して、批判的なレビューをしてください。

【観点】
1. この計画が暗黙に置いている前提を5つ以上挙げる
2. 各前提について、崩れる条件と崩れたときの影響の大きさ
3. 数字の整合性で疑問がある箇所(根拠が示されていない前提)
4. 経営会議で最初に出るであろう質問を5つ
5. 計画を通すために追加すべき情報

賛同ではなく、弱点の指摘に徹してください。
断定できない点は「確認が必要」と明記してください。

【事業計画案】
(ここに前提条件と数字の要約を貼り付け)

シナリオを複数用意する

楽観・基準・悲観の3シナリオを作る際、各シナリオで変わる変数と、その変化幅の考え方を整理させると議論の土台になります。ただし変化幅の数値自体は、過去実績や外部環境をもとに自分で決めてください。

工程別の任せ方を整理する

ここまでの内容を、工程ごとの関与度として整理すると次のようになります。

工程 AIの役割 人が必ず担う部分 検証の重さ
論点出し 問いの列挙、観点の網羅 優先順位の決定
情報収集 探す場所の候補出し 一次情報の取得と出典記録
構造化 フレームへの当てはめ 事実との突き合わせ
数字の組み立て 分解式の提示 数値の設定と計算
計画レビュー 前提の洗い出し、想定質問 対応方針の決定
資料化 構成案、文章の推敲 数字と出典の最終確認

ポイント

プロンプトに「事実に書かれていないことを推測で補わないでください」「断定できない点は明記してください」の2文を入れるだけで、根拠のない断定がかなり減ります。経営資料の下ごしらえに使うなら、この2文は定型として毎回入れることをおすすめします。

資料に載せる前の検証手順

AIを使って作った資料を経営会議に出す前に、次の順で確認してください。数分の手間で、大きな事故を防げます。

  1. 数字を全部拾う:資料内の数値を一覧化し、それぞれに出典と公表年月が付いているかを確認します
  2. 出典を実際に開く:AIが提示した資料名や統計名は実在しないことがあります。必ず一次情報にあたって現物を確認します
  3. 固有名詞を確認する:企業名、製品名、制度名が実在し、内容が正しいかを確認します
  4. 前提を明記する:どこまでが確認済みの事実で、どこからが自社の仮説なのかを資料上で区別します
  5. 秘匿情報を入力していないか振り返る:未公表の業績、M&A検討、人事情報などを入力していないかを確認します

特に未公表の重要事実は、社外サービスへの入力自体がリスクになります。取り扱いに迷う情報は、法務や情報システム部門など社内の専門部署に確認してから判断してください。

よくある質問

Q. 生成AIに市場規模を聞いてはいけないのですか?

A. 参考として大まかな桁感を掴む用途ならともかく、その数字を資料に載せるのは避けてください。生成AIは出典が確認できない数字を提示することがあります。桁感の把握に使った場合でも、資料化する段階では必ず一次情報で置き換えてください。

Q. 未公表の経営情報を入力しても大丈夫ですか?

A. 会社の情報管理規程と、利用サービスのデータ取り扱いポリシーの両方に依存します。未公表の業績やM&A関連の情報は、インサイダー情報に該当する可能性もあります。入力の可否は必ず法務や情報システム部門に確認してください。

Q. フレームワークに当てはめるだけの資料になりませんか?

A. その懸念は現実的です。AIが埋めた枠をそのまま資料にすると、一般論の羅列になりがちです。対策は、出力に対して「この市場に固有の事情はどこか」「この分析から導かれる打ち手は何か」と自分で問いを重ねることです。フレームは出発点であって結論ではありません。

Q. どの工程から導入するのがよいですか?

A. 検証コストが軽く失敗しても影響が小さい「論点出し」と「計画レビュー」から始めるのがおすすめです。この2工程は成果物に数字が入らないため、誤りが混ざっても資料の信頼性を直接損ないません。慣れてきたら構造化の工程に広げてください。

Q. チームで使う場合に決めておくことは?

A. 入力してよい情報の範囲、資料に載せる数字の出典ルール、AIを使った箇所の共有方法の3点です。特に出典ルールは、担当者が変わっても資料の信頼性を保つために有効です。うまくいったプロンプトを共有フォルダに集めておくと、部署内の品質のばらつきも減ります。

まとめ

経営企画における生成AIは、答えを出す存在ではなく考える前の準備を圧縮する道具です。市場調査なら論点出しと構造化、事業計画なら前提の洗い出しと批判的レビュー。いずれも人間が判断するための材料を素早く並べる使い方であり、ここに絞れば投資対効果は明確に出ます。

一方で、経営企画の成果物は意思決定に直結します。数字と出典だけは絶対に人間が握り、AIの提示した資料名や統計は必ず現物で確認する。この一線を守ることが、生成AIを長く安全に使い続ける条件になります。

  • 論点出しと構造化にAIを使い、一次情報の取得は自分で行う
  • 市場規模やシェアなどの数字をAIの回答から転記しない
  • 事業計画は「暗黙の前提」を洗い出させ、批判的レビューをかける
  • 未公表の経営情報の入力可否は、必ず社内の専門部署に確認する